編集長/黒木 正和
記録的な炎暑の夏が過ぎようとしている処暑の候である。私が少年だった昭和30年代、道路はまだ殆ど未舗装の福岡の街で、暑さを凌ぐことに電力にそれほど頼ってはいなかったのではないかと思う。クーラーはもちろん無いし、上段に氷を入れた木製の冷蔵庫だし、井戸水を張った盥でトマトや茄子、胡瓜、西瓜を冷やし、行水もした。その井戸端で夜遅く、2軒となりの中学生の娘が水浴びをする姿は、月光を逆光にして影絵のようで、偶然目撃した少年に鮮烈な感動を与えた。近所には泳げる川があり、遊び疲れて夜寝る蚊帳の中には、団扇で涼風をやさしく送る母がいた。宿題があったのが少し残念だったが、野山で昆虫採集、海水浴、校庭での野外映画、盆踊りなど、愉しみいっぱいの恵まれた真っ黒日灼けの夏休みがあった。きっとアスファルトやコンクリート、便利過ぎる家電が現代日本の夏を可怪しくしているのだろう。
●Off Time発行元
ドリームシェア株式会社
株式会社コマーシャルアーツ
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