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offtime11月号特集 九州・西の端っこ 糸島、工房だより

九州・西の端っこ 糸島、工房だより

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 海と山に抱かれた福岡県糸島市まで愛車でドライブに出かけました。キラキラとやさしく瞬く秋の海辺と、豊かな実りの季節を迎えた森や山、田畑をただぼんやりと眺めるだけで、日頃の疲れがいやされ、心にあたらしい風が送り込まれていくようです。糸島には、全国各地から集まってきた作家たちの工房が点在しています。まるで友人の家に語らっているかのようにリラックスできる糸島の工房を、今度の休み、訪ねてみてはいかがでしょう。
  糸島は、『魏志倭人伝』では「伊都国」として紹介された歴史の深いエリア。筑紫富士の愛称で親しまれる標高365メートルの可也山、脊振山系、そこから流れる河川によって潤される田畑、玄界灘などから構成されています。あらゆるものづくりは、その土地の気候風土と密接に繋がっているものですが、ここ糸島ではちょっとした面白い現象が起きています。
それは、陶芸に関すること。有田でも小石原でも信楽でも、そこに土があるから窯業地になったわけですが、糸島には産業として成り立つ量の陶土はありません。もちろんあるにはあるのですが、目が荒くて量もとれないため、陶土としてはないに等しいとか。けれどここ数年、どういうわけか陶芸家が増え続けています。唐津や有田、小石原など九州の主要な窯場を始め、遠くは、瀬戸や益子、信楽で学んだ作家が糸島で自分の窯を築き、独立するのはなぜだろう。今回工房を廻ってみて、その理由がわかりました。彼らの話によると、「古くからの伝統窯業地ではない分、しがらみが少なくて自分の思う作陶ができる」ということなのです。
土は、全国から自分が長年使っていて親しみのあるものを取り寄せればいい。窯だって、昔ながらの大きな登り窯がなくても、電気窯やガス窯で充分に焼くことができます。ただし器をコーティングする釉薬だけは、別。「田んぼの藁や蜜柑の木などを燃やして、自分のオリジナルの釉薬を作ります。それから窯の中に牡蠣の殻や海藻を入れて焼成することで思わぬ化学変化を生むこともあって面白い。こういうのは、糸島だからできるやきもの」とは、陶芸家の弁。陶土はありませんが、糸島の工房から生まれる作品には、この地だからこその風土や空気、風が香っているといえるでしょう。
工房を訪ねるときは、できれば電話予約をした方が好ましいですが、偶然に工房の看板を目にした時は、どうぞ好奇心のまま訪れてください。今や糸島は、関東でもメジャーになっているそうですが、九州で暮らす私たちはブームだからというのではなく、いつもの日常の延長でふらりと訪ねることができます。贅沢ですよね。作り手の工房を訪ね、そこで日々繰り返される誠実なものづくりを見せていただく。手にとって、お気に入りを持ち帰る。そうしたなかで、糸島は第2の故郷のように懐かしく、大好きな場所になっていくかもしれませんね。

**工房紹介**

Q-CERA

  若い頃、冒険仲間の妻とふたり、3年3ヶ月かけてヨットで「夢の太平洋横断を実現した」丸田博人さんは、ヨット部の大学時代、熱血証券マン時代を経て、糸島の地で陶芸家になった。庭仕事やキス釣り、そして陶芸。好きなことに取り組み続ける姿がいい。異国情緒が満ちた日常の器、丸田ブルーと呼ばれる青銅色の花器など、これからも暮らしに彩りを与える作品を作り続ける。
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カントリーチェア

  仲村旨和さんと順子さんご夫婦が糸島にやってきたのは2001年のこと。和風建築の大工の修行を積んだ仲村さんは、その技を生かした精巧で遊び心のあるカトラリーで知られている。東京は恵比寿の人気雑貨店「ファーマーズテーブル」で扱われている仲村さんのカッティングボードは、あの『暮しの手帖』でも紹介された。おふたりの陽気な人柄、自前のログハウスも見応え充分。
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ハーブAガーデン プティール倶楽部 伊都国

  工房巡りの途中でランチやお茶でもという時は、こちらがおすすめ。3,000坪という広大なハーブガーデンと田んぼをのぞむレストランでは、ハーブ料理の達人、小島浩平シェフが腕をふるう「自家製バジルペーストのパスタ」などが味わえる。こちらのテーマは、無農薬栽培と循環。暮らしに植物など自然の力を取り入れようと、美味しく楽しく心地よく伝えてくれる。
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家具工房 CLAP

  オーナーの山本直毅さんは、脱サラして松本職業訓練校で木工を学び、独立。「糸島クラフトフェス」のリーダーとして信頼も厚い。「工房は敷居が高いと思われていますが、気軽に遊びに来てください。糸島は個性豊かな作家が多いので、住んでいて楽しいし気持ちがいいですよ」。他店で購入した家具のリペアや座面張りも快く引き受けてくれる点もありがたい。
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コリデ−ル

  紡ぎ教室主催のニュージーランド旅行で意気投合したふたりが営む高台の工房からは、広大な海が見下ろせる。コリデールは、いちばん多く使う羊の品種名。制作は、毎週末だけ。石鹸水とお湯をかけた羊毛をゴシゴシとこすってもんでは、一枚の生地に仕上げていく。スリッパ、マフラー、椅子敷き、オブジェなど暮らしのなかに溶け込む作品群には、ぬくもりが満ちている。
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自然窯

  糸島の山を開墾して、工房兼住居を建てたこちら。民芸運動全盛期の頃に、益子で修行した村上誠吉さんと妻の裕子さんが、今どきめずらしい土間の工房で迎えてくれた。糸島の裏山で掘ってきた粘土質の土を混ぜて作る器は、ダイナミックで素朴な迫力があり、飾らない美が存在する。河井寛次郎がのこした「暮しが仕事、仕事が暮し」という言葉を地でゆく工房を体感してほしい。
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うつわと手仕事の店 研

  長きにわたる大学生活を経て一念発起。小石原で研鑽した敦賀研二さんは、「糸島クラフトフェス」を立ち上げた中心人物。ギャラリーには、小石原の技法を現代にアレンジした敦賀さんの器のほかに、全国から集めた生活雑貨を展示している。訪れるたびに発見がある店を切り盛りするのは、敦賀さんの奥様。うつわの話、料理の話など花が咲くことだろう。
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コンガリ舎

  愛らしいパン皿で知られる全国でも人気の陶芸家、くぼともこさんが作るうつわには、古きよき民芸の香りがただよっている。ハーブやバラ、愛猫のトント、民芸小物、旅、映画『アレクセイと泉』など大好きなものに囲まれて手を動かす毎日のゆるやかなリズムが作品にも現れるのだろう。気がつけばいつもそばにあって、心を和ませてくれる。それが、コンガリ舎のうつわだ。
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伊都桃山窯

  とろんとなめらかな白い肌合い。素焼きした器の上においた和紙の上から、藍色になる古代呉須をのせて緻密な文様デザインを描いていく和紙染めと、食べ物をおいしくまろやかにする鉱石を混ぜた特別な釉薬が特徴の磁器に目が吸い寄せられた。有田の磁器に出会い、心惹かれたという赤間厚子さんは、生まれ育った糸島でこれからも磁器の世界を探求していく。
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陶工房 Ron

  猫好きの方は、キャーッと叫んでそこから一歩も動けなくなるのではないか。おおげさではない、本当に可愛いのだ。大内龍太郎さんと妻の由美さんが営むログハウスのギャラリーを訪ねてみてほしい。益子で修行した大内さんは、ベースの土に線を描き、別の土を埋め込む象嵌の手法を用いた普段づかいのうつわが得意、由美さんは指輪やレリーフなど暮らしを豊かに彩るものが中心。
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唐津焼 高麗窯

  「唐津焼のルーツのルーツを辿ると、韓国。だから『高麗窯』という名前にしました」と語る古家章弘さん。45年前、妻のトシ子さんと築いた登り窯の火を、息子の義弘さんと共に絶やさずに守り続ける。宝物は、350年前の古陶片。奥から出してきて大切そうに見せてくださった。時間が許すならばぜひ、工房の裏にある登り窯を見学してほしい。
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杉の木クラフト

  もと建具屋の工房は、ネットで見つけた掘り出し物だったとか。大分の山奥から糸島に移り住んできた溝口一家の毎日は笑いがたえない。杉一筋、17年。10数年作り続けてきた“木の葉皿”は、漆や膠などの自然素材で接着。「糸島に来て自分が心地いいと感じるものづくりができるようになりました」と溝口伸弥さんは語る。無農薬栽培の米作りは、2015年で6度目の収穫!
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