Books Off Time recommend
読書は、自分自身との対話の時間。医療の現場で起きるさまざまな疑問や悩みのヒントになる言葉や思想との出会いが待っているかもしれません。ちょっとだけ休憩したい時におすすめの7冊をご紹介します。読者プレゼントもありますので、ふるってご応募ください。
A 芸術と科学のあいだ 福岡伸一著(木楽舎)
巻きも、フェルメ−ルも、サルバドール・ダリも、理系や文系、アートなどと分類できるものではなく、密接にからみあい、人体の仕組みのように互いに多大な影響を及ぼしあっている。
そう本書で語るのは、「お変わりありまくりですネ」のフレーズで知られる『動的平衡』の著者、生物学者の福岡伸一氏こと福岡ハカセである。編集部Kも3年ほど前に講演会を聴いたことがあるが、ユーモア満点の生命の話に、病気を抱えていた友人は元気を取り戻し、私も自分のおおいなる可能性を感じた。
そんな福岡ハカセのお気に入りは、「真珠の耳飾りの少女」などで知られる光の画家、フェルメール。フェルメールが生きた時代は、ガリレオが望遠鏡で天体をし、ニュートンやライプニッツは微分を考え、精子が発見された。“彼らは同じ時代の潮流の中にいて、方法こそ異なるものの同じことを希求していた。たえまなく移り変わりゆく動的な世界のあり方をなんとかして捉えたい・書き留めたいという希求。そして彼らはそれぞれの方法でみごとな到達をなしとげた。理系と文系が、あるいは科学と芸術が分離してしまう前の、実に豊かな時代に彼らは生きた。”
まるで神の仕業としかいいようのない精妙な仕組み、神秘の美しさにハッと眼が開く瞬間。それは研究分野などではくくれない、人類共通の喜びなのである。
B 逝かない身体 ALS的日常を生きる 川口有美子著(医学書院)
脳や末梢神経からの命令を筋肉に伝える運動ニューロンが侵され、身体の自由がきかなくなる難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)に侵された母親と、それを自宅で看護する家族の暮らしを描いた一冊は、第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。
約12年間、驚きの速さで身体の機能を失いゆく母親の介護を続けた著者の川口氏は、この病気を通じて多くの同じ病をもつ患者たちと出会い、厚労省や日本ALS協会の活動を始め、大学院に進学し、この病の在宅療養における家族のあり方についての論文を発表するなど、自身の道を歩んでいくわけだが、そこに至るまでは気の遠くなる格闘の日々であった。明るくてしっかり者、乳がんが分かった時ですら冷静沈着に対処した母親が、「死にたい」と日に何度も訴える。
著者は、こう記している。“だが患者のそんな悲痛な叫びも、追いつめられている家族には余裕がないから、「そんなに死にたいのなら、そうしてあげるのがいいのではないか」とばかりに、殺意さえわき上がってくるのである。(中略)我が家も例外ではなく、幾度となく母は、妹と私に殺されかけた。私は母のカニューレから管を取り外して、母がだんだん赤黒くチアノーゼになっていく様をじっと見ていたが、母は喜ぶ様子もなく私をぎろっと睨み返してきた。瞬きさえできない眼球の奥で、「わたしに手をかけてはいけない」と言っているかのようでもあった。”
病にかかる者も看病する者も、それぞれの運命をどう受け入れ、生きていくのか。「人生は楽しいものよ、好きなことをしなさい」。川口氏の母が書き残した遺言である。
C 死と身体 コミュニケーションの磁場 内田樹著(医学書院)
フランス現代思想の研究の傍ら、30年間、合気道を稽古してきた内田氏によれば、「死」と「身体」は両者共に〈ことば〉という道具が通じないがゆえに、何らかの方法でコミュニケーションしたいという感情を抱かせるのだという。
目次には、興味深い見出しが並ぶ。第一章 身体からのメッセージを聴く第2章 表現が「割れる」ということ◎身体と希望“思春期とは口ごもる時期である。敬語とはことばを「割る」こと。「定型」という退行オプションに逃げ込む人たち。バカははっきり言いたがる。ことばが増えると感情が割れる。「脳と身体」の二元論を乗り越える”。
さらには、死も身体も過去から未来へという単純な時間軸で捉えられるものではないと内田氏。第3章 死んだ後のわたしに出会う◎身体と時間 第4章 わからないままそこに居る◎身体と倫理 第5章 死者からのメッセージを聴く。自分の身体とどうつきあい、命を全うし、死んでいくのか。
自分の感情すらよくわからないし、説明がつかない。大丈夫、それは人間誰しも抱える自然な感情なのだ。「死」も「身体」もどんな言葉にも置きかえられない曖昧な世界だからこそ、濃密な何かがつまっていることを、この本を通じて感じられると思う。
D 看護の時代 看護が変わる 医療が変わる 日野原重明、川島みどり、石飛幸三著(日本看護協会出版会)
2011年3月11日に起きた東日本大震災を受け、その一ヶ月後に発売された本書は、医療業界に身を置く3名がこれからの看護について奇譚なく語りあう鼎談集である。「医療の概念を変えるのは、これからの看護である」という聖路加国際病院理事長、日野原氏はいう。天変地異が目立つ昨今においては、「治す医療から、健やかさを見守る医療へ」の意識の転換が求められるのではないかと。それはつまり、数値だけでは判断できない“健康感”であり、おだやかな心を保てる“百人百様の「健康」”ということ。患者一人ひとりとその家族へのオーダーメイド型医療のさらなる充足が求められるなか、医療や介護のプロとして最前線に立つものとしての意識変革の必要性をやわらかな語り口で促す本書から、この一節をご紹介したい。“現実に目に見えるものを「観」、実際に耳に聞こえるものを「聞いている」のが医師だとすれば、看護師は自分という存在をフィルターにして、患者の内にある目に見えぬものや語られないことばをも「感じている」のだといえるでしょう”
E 笑うナース 岸香里著(いそっぷ社)
看護学校時代から漫画を書いていた著者の岸さんが看護師を辞めてから書いたコミックエッセイ。医療従事者の皆さまにとっては、身におぼえのあることだらけかもしれません。じゃ、帯の言葉を読みあげますね。“ナースや医者はもちろん、患者さんのこともボロクソ、もとい正直に書きました(^^;”
いくら真っ白いナース服が似合う天使といったって、人間だもの。いろいろあるさ。夜勤タイムの息抜きにギャハハハハッとひと笑い。でもただ笑ってるだけじゃない、ちょっと考えさせられる、ほろりとさせる場面もちらほら。生きるってキレイごとじゃないですもんね。
F へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々 鹿子裕文著(ナナクロ社)
読めば爆笑、いや身をよじって大爆笑。そのうち涙まで。莫大な資金がないと入れないケア施設と違って、老いたら誰でも入れる「宅老所よりあい」では、人間対人間の性差や年齢をこえた和やかにして凄絶な「生」のやりとりが日々勃発する。「よりあい」設立者の下村恵美子氏から、あんたの好きなようによりあいの雑誌ば作ってんしゃい!と頼まれた鹿子氏は、もと東京でバリバリ活躍していた敏腕編集者。故郷の福岡に戻った氏は、ひょんなことから「よりあい」メンバーと知り合い、面白いから手伝ううちに、下村氏たっての希望により雑誌『ヨレヨレ』創刊へと踏み出す。
今回は記事作成から撮影、デザインまですべて自力で4号まで出す傍ら、待望の新刊『へろへろ』を書きおろした。読めば、きっと肩の力が抜けて、根拠のない自信と勇気がわく。表紙イラストは、今や世界じゅうでひっぱりだこの小学生画家、モンド君。
帯のフレーズはこうだ。“ぶっとばせ、貧老!未来はそんなに暗くない。 これは、自分たちの居場所を、自分たちの手で作ろうとした人々の実話。「お金のないことが、あんたはそげん恥ずかしいとね?」。著者、鹿子氏の印税生活バックアップのためにもぜひご購入をお願いします。
G 呼吸の本 谷川俊太郎、加藤俊朗著(サンガ)
唯一、私達が自分でコントロールできるのは呼吸だと聞いたことがある。この本は、呼吸の先生こと加藤氏に呼吸法を教わっている詩人の谷川俊太郎氏の素朴な質問に加藤氏が答えるという一問一答形式の本。呼吸だけに留まらず、意識と気づき、魂、言葉を使って閉じた心を開く言霊ゼーションの話など、心と体の不思議なお話が登場する。印象に残ったフレーズをいくつか。
“大事なことを言わせてください。生命は呼吸に支配されてます”
“ここ一番というときは集中力を高めリラックスする必要があります。呼吸をしてください。仕事や、勉強中、机に座った状態で、下っ腹を意識して、腹で吐くんです。吐くだけです。効きますよ。重要な会議のときなんかは状況の改善がはかれます。(中略)できるところで、できる長さでいいんです。困ったとき、緊急のとき、切羽詰ったとき、人生の岐路に立ったときは、必ず一呼吸入れる。これです。”
“肛門のしまり具合と運命はつながっています”
“健康も病気も夜つくられるんです。ですから健康になりたい人は寝る前にするといいです。気持ちよく寝ることです。これ絶対ですから。精神的な病、心の病をおもちの方はつねに呼吸を意識することです。”
ね、読んでみたくなったでしょ? 加藤氏による呼吸のレッスンCD付き!
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